第二の血痕 THE SECOND STAIN
ストーリー
或る秋の火曜日早朝、ホームズの元に221Bにて高貴な二人が秘密裏に会いたいとの電報が届く。定刻にやってきたのは時の英国首相ベリンジャー卿とヨーロッパ担当相トレロニー・ホープで、外国君主から届いた書簡がホープの状箱より盗まれたたのを取り戻して欲しいという依頼だった。
世間に知られればヨーロッパを戦争の渦に巻き込むため、公には捜査できないので、私立探偵であるホームズを頼ってきたのだという。書簡の内容を聞くが、国家機密だとして明かそうとしない首相に、ホームズは多忙を理由にこの依頼を断る。
怒って帰ろうとした首相だったが、内容を打ち明けた。我が国の植民地発展に対する感情的な手紙で、公になれば国民感情を害し、世界大戦を引き起こすという。助言を求めた首相に対し、ホームズは「戦争の準備をなさい」とだけ言った。
二人が帰ると、ホープの妻が入れ替わりにやってきて、紛失した書簡の内容を教えて欲しいとせがむがホームズは拒否。この手の仕事をやるのは3人いると目星をつけたホームズは、国際政治学者でスパイのルーカスの本を訪ねようとするが、既にルーカスが殺されたという新聞記事が載っている事をワトスンが告げる。
交際のあったフランス人の女が起こした事件だったが、現場に赴くとレストレード警部と鉢合わせ、不思議な事が一つあるから事件のあった部屋を見て欲しいという。部屋の敷物には殺人の血痕がついていたが、裏返すと床には血痕がついておらず、何者かが敷物を動かしたようだった。
歓喜の跳躍!
今作は、グラナダシリーズの中でも印象深いシーンが幾つも盛り込まれています。格調高い音楽で飾られた冒頭シーン、ルーカスの元に訪れようとするホームズを驚かすワトスン、このシリーズでは珍しい夜のロンドン中心部の雑踏風景、事情を知らないレストレード警部の絡み、床に這いつくばって隠し箱を見つけ出そうとするシーン、普段は感情を表さないホームズのラストシーンでの歓喜の跳躍など、見所の多さが他の回とは突出しています。
某君主による一通の感情的な書簡が世界大戦を引き起こす原因になるという話ですが、「海軍条約事件」の回でもそうでしたが、当時の国際関係の微妙な空気を読み取ることが不可能な現代の我々には、その程度の書簡が公表され国民感情を害したくらいで戦争にまで発展するのかと、今ひとつピンと来ません。
おそらく当時の微妙な空気をヒントにこの話を執筆したドイルのみぞ知ることなのでしょう。湊かなえの小説を読んでいると、現代日本に生きる我々が日々のニュースに接して感じていることを率直に架空の物語にしてしまう手際の良さを見ると、そう感じずにはいられません。ドイルの原作を手がかりに、この辺りの国際政治の背景を研究してみるのも面白いかも知れません。