シャーロック・ホームズの冒険データベース

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ジェレミー・ブレット20回忌に寄せて

2015年の今年は、シャーロック・ホームズを演じた稀代の俳優ジェレミー・ブレットの没後20年にあたります。

ジェレミー・ブレットが逝去した1995年、日本では1月に阪神淡路大震災が起こり、その僅か2ヶ月後には地下鉄サリン事件が発生。暗い世相の最中に、新世紀エヴァンゲリオンが放送されて一大ブームを巻き起こし、シャーロック・ホームズの冒険を放送していたNHKでは、後々まで語り草となる歴史映像ドキュメンタリー番組「映像の世紀」シリーズが放送された年でもあります。日本は、社会面、カルチャー面でも時代の転換点となった年でした。戦後の様々な古い価値観が崩壊していった現代日本のターニングポイントと言える年だったのではないでしょうか。

1997年には世間を騒がせた神戸連続児童殺傷事件が起こります。時代はよりいっそう暗く沈鬱になっていくかのようでした。

16歳か17歳の頃、新聞の広告欄に、大英帝国展が開催されると掲載されていたのを見て、大阪松坂屋のデパートまで足を運びました。シャーロック・ホームズのグッズも売り出されると書いてあったからだと思います。

デパートの上の方の階のフロアに入ると、所狭しとグッズが並んでいました。サンクラウンから発売されていたシャーロック・ホームズ全集のビデオ、シドニー・パシェットの挿絵をカラーにしたイラスト、ロンドンにあるシャーロック・ホームズ博物館でグッズとして売られている数々の品。

定期的にダグパイプを担いだスコットランドの民族衣装に身を包んだ白人男性が、数人の係員を引き連れて、異国情緒溢れる音色を振りまきながら館内を練り歩いていました。全身ホームズの衣装に身を包んだ小太りの日本人の男もいます。紺のブレザーの制服姿の同い年くらいの女子高生が三、四人、ビデオの並んだ棚の前で興奮気味に話し込んでいました。

綺麗なお姉さんが、ポラロイドカメラを持っていました。500円で1枚記念に撮影してくれるそうです。僕は例の帽子をお姉さんから受け取って頭に被り、1枚撮って貰いました。お姉さんは「ちょっと待ってくださいねー」とおどけた感じでパタパタと写真をあおぎます。ポラロイドの写真に、記念の金色のシールを貼って貰いました。その写真も、残念ながらどこかに紛失してしまいました。黒縁の大きなアラレちゃんメガネを掛けて、黒のシャツの写真…。

その後僕は、限られたお小遣いの中から、欲しいものをいくつか買いました。パイプを咥えたホームズのお馴染みの横顔のシルエットがプリントされた白いTシャツに、ピンクの柄のマグカップ、イラスト…。残念ながらイラストの方はどこかに紛失してしまいましたが、Tシャツはボロボロに黄ばんだ今も大切に仕舞っていますし、マグカップは今現在も愛用しています。

そのとき訪れた松坂屋も、今はもう不況の煽りを受けて閉店し、改装され、その場にはありません。記憶はどんどん現実に塗り替えられ、更新されていきます。それでも僕の頭の中の片隅に、そのときの光景は僅かずつ姿形を変えて残り続ける事でしょう。

ジェレミー・ブレットに驚喜していた女子高生達はもう結婚して、子どももいるかもしれません。写真を撮ってくれたお姉さんももう40代でしょう。

エヴァンゲリオンの物語は2015年から始まります。新劇場版エヴァンゲリオンは、残りの第4部で完結しますが、もうすぐ公開間近でしょうか。2015年、新・映像の世紀が6回シリーズで放送されています。メインテーマは加古隆のあの名曲「パリは燃えているか」です。少し前にはNHKのBSプレミアムで、シャーロック・ホームズの冒険が再放送されました。本国イギリスでは、シャーロック・ホームズを現代版にアレンジしたベネディクト・カンバーバッチ主演の「Sherlock」が放送され人気を博しています。アベノミクスで日経平均株価は一時2万円台を回復しました。時代はまるで1995年に舞い戻ったかのような様相です。

善人の塊みたいな英国紳士Drワトスン役を演じたエドワード・ハードウィックは2011年にこの世を去りました。もしジェレミー・ブレットが生きていたら、79歳でしょうか。まだまだ現役です。もし彼が生きていたら、私たちファンにどのようなメッセージを投げかけてくれていたことでしょう。親と子以上の年の差はあるものの、同じ時代を生き、同じ時代の空気を吸っていた事に感謝したいと思います。

2015年、皆さんはどのような年になりましたか?

2015年12月25日クリスマスに記す。